Lower Moshiのイネ黄斑病

2010年12月13日~15日

Lower Moshi灌漑地区においてイネ黄斑病(Rice Yellow Mottle Virus: RYMVに感染して発症するイネ病害)に似た症状の病害が発生し,徐々に感染が拡大している.そこで,感染拡大の実態を調査した.

Lower Moshi灌漑地区(赤の枠線内にある圃場を調査)

調査時,多くの圃場で成熟個体は既に刈り取られていたため,主にひこばえを観察した.これまでにKATCへ寄せられた病気情報を元にMandaka MnonoとUpper Maboginiを訪問したところ,RYMV罹患を疑わせるひこばえを多く観察した(写真1).また,Upper Maboginiの圃場では,登熟不良のため収穫されずに放置された株にもRYMV罹患を疑わせる症状を観察した(写真2).それら未収穫株が,パッチ状に分布していることもRYMV罹患を想像させた(写真3).そこで,RYMV罹患株の写真を見せながら農家に聞き取り調査したところ,過去3作目(2009年後期作)以降から,その写真に酷似の症状が発生するようになったという.さらに,興味深い現象も観察した.例えば,隣接するひこばえに病徴が観察されているにも拘わらず,収穫時の脱粒から発芽した苗には病徴が観察されなかった(写真4).また,裁埴密度が高くなると病株(ひこばえ)密度も高かった(写真5).

次に訪れたRau ya Katiでは,病株を観察することはできず,周辺農家も同様な病株を観察した経験がなかった(写真6).また,川と主水路を挟んでUpper Maboginiの対岸に位置するKaroreniでも病株を観察することはできなかった.

<RYMV研究の課題?>

今回の調査で観察した病徴の原因がRYMVだと仮定すると,調査中に観察した様々な現象はRYMVの耕種的防除の可能性を示しているとは言えないだろうか?RYMV病株は,年間2~2.5回作付けするUpper Mabogini やMandaka Mnonoで観察され,1~2年に1回しか作付けしないRau ya Katiでは観察されなかった.Upper MaboginiやMandaka Mnonoの農家は,水路の上流部に位置するという立地条件を悪用し,年間を通じて多量に取水することで2~2.5期作を行っている.それに対して,Rau ya Katiでは,上流部の過剰取水が原因で水が不足し,通年で栽培することができない.また,これまでにも2~2.5期作を実施している圃場で頻繁に病徴が観察され,1期作を実施している圃場での観察事例は少なかった.これらの事実は,通年栽培する水田でRYMV活性が高く維持される一方で,乾田化あるいは二毛作を導入することでRYMV活性を抑制できる可能性を示しているのかも知れない.

しかし,同様に年間2~2.5回作付けするKaroreniでは,RYMV病株を観察することはできなかった.通年栽培する水田が潜在的にRYMV活性を高く維持するのであれば,KaroreniはRYMVに感染していない可能性がある.ただ,感染地域のUpper Maboginiとの距離が20~50mの近距離にも拘わらずRYMV病株を観察できないのは,何を意味するのだろうか?RYMVが昆虫によって伝播するのであれば,20~50mの距離を飛び越えてKaroreniに伝播しても良さそうなものだが,そうはなっていない.それは,RYMVが昆虫を媒介者とせず,別経路で伝播することを意味しているのだろうか?あるいは,Karoreni(年間2~2.5作)とRau ya Kati(1~2年間1作)に病株が観察されないのは,単純に媒介昆虫が飛来していないだけで,通年栽培や乾田化とは無関係なのだろうか?これらの点を探れば,RYMVの耕種的防除が可能になるかも知れない.

RYMVの耕種的防除の可能性を予感させる現象を他にも観察した.同一圃場内で,密植にすると発症頻度が高く,ひこばえには発症しても種子から発芽した苗には発症しなかった.一般的に,密植した植物体は弱勢になりやすい.また,ひこばえの体内は本体の刈り取り部分を通じて外部に露出している.そのような弱勢個体や裂傷個体はRYMVの攻撃に弱く,発病しやすいのだろうか?疎植と適正な肥培管理で頑丈な個体を育成すれば,発病を抑制できるのかも知れない.

農家が申告したように,病株は2009年頃から散見されるようになり,その密度は年々増加する傾向にある.仮に増加傾向が続く場合,深刻な問題を引き起こす可能性を否定できない.農家は何の根拠もない噂を信用し,病気駆除と称して除草剤を大量に散布しているのが現状である.病株の原因究明と現実的な解決策の提案が急がれる.

<Mr. Tibanyendela>

Mr. Tibanyendela は,東京農大(国際農業開発学科)で実施されるアフリカイネ生産研究(修士課程)プログラムの研修生に選出され,夏秋教授の下でRYMVを研究することになっている.当初,本研修にはザンジバル研究員が推薦されていたものの,当該研究員が推薦を辞退したため,急遽,Mr. Tibanyendelaが代替候補者として推薦された.Mr. TibanyendelaはKATCで作物部門に所属し,栽培技術の講義を担当している.しかし,植物病理学に興味を頂いていたようで,本研修生に選出される直前には,ソコイネ農業大学修士課程への入学申請が受理され,植物病理学を選考することが決定していたそうだ.本研修生に選出され,東京農大で病理学を専攻できることが大きな喜びのようで,野外調査にまつわる様々な活動において,これまでに見たことのない機敏な行動を見せていた.

今後の調査>

<調査 続編>

東京農大 夏秋教授その2」を参照

今後,Mr. Tibanyendela は,右表のような流れで調査を実施する.12月中旬~1月上旬までは,Lower Moshiと周辺の灌漑地区を重点的に調査し,1月中旬,タンザニア北部の主要灌漑地区を調査する.理想的には,年内に全灌漑地区の調査を終了したいところだが,どの灌漑地区も今まさに播種の最盛期で,早くても1月上旬以降でなければ,植物体を観察することはできない. IR64とSAROを各100ポット用意したので,随時,採取したサンプルを両品種に接種し,病徴の発現を観察する.また,今回の調査で得られた仮説を元に農家への質問票を早急に修正すること,一連の活動を週報として報告し,随時議論することで合意した.

12月中旬Lower Moshi灌漑地区サンプル採取, 農家聞き取り
 KATC接種,報告書作成
 12月下旬Lower Moshi灌漑地区, Musa Mwijanga灌漑地区サンプル採取, 農家聞き取り
 KATC接種,報告書作成
 1月上旬Lower Moshi灌漑地区サンプル採取, 農家聞き取り
 KATC接種,報告書作成
 1月中旬Ndungu灌漑地区, Mombo灌漑地区 サンプル採取, 農家聞き取り
 KATC接種,報告書作成
 1月下旬KATCサンプルパッキング, 報告書作成
 2月上旬Dar es Salaam 出発