Field Survey: 夏秋先生2

2012年2月19日~24日

<背景>

夏秋教授は,2009年4月から2011年3月に掛けてMr. Mgonja(Kilombero農業研究研修所: KATRIN)を指導し,修士号を取得させた.また,2011年4月から現在までMr. Tibanyendela(Kilimanjaro Agricultural Training Centre: KATC)を修士課程で指導している.両研修生ともサブサハラアフリカに固有のイネ病害ウィルスRice Yellow Mottle Virus(RYMV,イネ黄斑病ウィルス)を研究課題にしている.

2009年~2010年に掛けて,Lower Moshi灌漑地区でもRYMV様病徴を示す植物体が観察されはじめ,現在までに被害は急激に拡大している.両名が感染個体のイネ葉をELISAおよびRT-PCRで分析し,病徴がRYMVによって発生していることを確認した.

タンライスは,RYMV病害の耕種的防除法を探るため,2011年6月から本格的に調査を開始した.すなわち,特定の栽培技術(栽培環境)が病害発生を誘発しているという仮説のもと, Lower Moshi灌漑地区の全圃場で病害の発生程度を調査し,各農家が実践する栽培法についても聞き取り調査をした.


今回の調査では,夏秋教授が① Lower Moshi灌漑地区のRYMV発生状況を視察し,②タンライスの実施した調査結果を分析して,③今後の調査方針について提言する,ことを大きな目的とした.また, Mr. MgonjaとMr. Tibanyendelaが,ソコイネ農業大学の研究施設を利用して,独自にRYMV研究を推進する可能性を探ることも目的とした.

<RYMVセミナー>

Mr. Tibanyendelaが研究の途中経過を報告した.日本へ留学する直前にLower Moshi灌漑地区で採取したRYMVの遺伝子配列を解析し,そのRYMVがビクトリア湖周辺( Lower Moshi灌漑地区の西方)に蔓延するものと相同性が高いことを確認した.これまで, Lower Moshi灌漑地区のRYMVがNdungu灌漑地区( Lower Moshi灌漑地区の東方)から持ち込まれた可能性を疑っていた.しかし,Ndungu灌漑地区のRYMVと Lower Moshi灌漑地区のそれとでは相同性が低く,その可能性が低いことを示した.この結果を再確認するため,Ndungu灌漑地区,Lekitatu灌漑地区(西方),Mahande灌漑地区(西方)で再度サンプルを採取し,分析・比較することを提案した.


また,大泉専門家が Lower Moshi灌漑地区での調査結果を報告した.RYMV様病徴はUpper Maboginiのほとんどの圃場で観察され,ここがRYMVの侵入口であることを示唆した.病徴は,Lower MaboginiとRauの一部の圃場にも拡大していた.ただ,Upper Maboginiから距離のある圃場に発症しており,RYMVが何らかの移動手段で飛び地伝達された可能性を示唆した.聞き取り調査の結果は,輪作や休閑が病徴を抑制している可能性を示唆した.今後,全圃場から採取したイネ葉を夏秋教授が検査し,各圃場の病徴がRYMVによるものか確認する.また,聞き取り調査の結果をロジスティック重回帰分析に掛け,どの栽培技術(栽培環境)が病気の発症と有意に関係するか突き止めることで合意した.

<RYMV接種試験>

LMISで採取したRYMVをポットで生育する健全個体に接種する試験を実施した.感染個体の葉をすりつぶし,健全個体の葉に擦りつける.感染個体の根を切り刻み,健全個体が生育するポット土壌に混ぜる.感染個体が生育していた圃場土壌を健全個体が生育するポット土壌に混ぜる.これらの処理により,RYMVが「葉→葉」だけでなく「根→根」や「根→土→根」という経路でも感染するのか確認する.

<RYMV検査>

Mr. Tibanyendelaは,新しいRYMV検出法(DIBA,Dot Immuno-Binding Assay)に挑戦している.DIBAは,Mr. Mgonjaの取り組んだRIPA(Rapid Immunofilter Paper Assay)と同様に,現場で実施できる簡易なRYMV検出法である.RIPAがRYMVを定量化できるのとは異なり,DIBAはRYMVを検出するのみである.しかし,DIBAの検出時間はRIPAよりも圧倒的に短く,現場での病気診断にさらに適した方法である.LMISで採取した感染葉を使い,DIBAの検出精度を確かめていた.今回,新しいRYMV抽出液を利用して検出精度を向上させようとしたが,予想に反して精度が低下してしまった.帰国後,従来の抽出液で再挑戦するとのこと.

<Mombo灌漑地区調査>

Mombo灌漑地区を調査した.Kilimanjaro Agricultural Development Programme(KADP)が実施されていた当時,当該地区にもRYMV発生が確認されたが,今回の調査では確認できず,灌漑地区幹部も最近は見掛けないと話していた.ただ,いもち病(ゴマ葉枯れ病か?)が地区全体に広がっていた.

<SUA>

SUAを訪問し,Dr. Kihupiに面談した.Dr. Kihupiは,RYMV抵抗性品種の育種家として知られる.現在,SUAに併設されたAfrica Seed Health Centreに所属する.昨年半ばまで,AfricaRice東南部アフリカ代表を務めていた.AfricaRice任期中,管轄下の研究員(Dr. Zenna)にRYMV抵抗性品種を育種させていた.その実験圃場がSUA構内にあり,それも見学した.また,タンザニアで実施されているRYMV研究の最新情報も提供してくれた.さらに,Mr. Mgonjaや Mr. Tibanyendela が実験したい場合,Africa Seed Health Centreの施設を利用できることを確認した.また,依頼分析も可能であることを確認した.