Think Globally
Act Locally

Global Plant Resource Science, Mie University

三重大学 国際資源植物学研究室

Nobuhito Sekiya
Ph.D. Professor

コメ作りは土作り

古来「コメ作りは土作り」と言われ、農家は家畜糞尿や里山の腐葉土を投入することで水田の地力を維持してきました。現在、基幹的農業従事者への農地集積が着々と進んでいます。そうした大規模稲作においては、化学肥料投入を前提として技術体系が構築されています。しかし、近年、水田における有機物投入量の減少が地力低下を引き起こしている事例が全国で報告されています。先人に倣って有機物投入量を増加させたいところですが、1人あたり数㌶以上を耕作する状況では、きめ細かな土作りが困難になっています。現在、主食であるコメを将来に渡って安定的に国内自給できるよう、大規模稲作の持続性を担保する技術、特に省力的に地力を維持する技術が求められています。これは国内にとどまらず世界共通の大きな課題でもあります。私達は、作物生態生理学を基礎に異分野の知見も融合しながら、省力的な地力維持技術の開発に取り組んでいます。私達は、地域の課題を世界規模の課題として捉え、成果を発信していきます。

タンザニア稲作

私たちは、タンザニアの稲作生産性向上を目指し、多角的な研究を行っています。灌漑稲作では、基本技術パッケージの導入により収量が大幅に向上することを実証し、農家参加型アプローチによる技術普及の有効性を示しました。また、NERICAの適応性を評価し、多くの品種が普及に適していることを明らかにしました。イネ黄斑モザイクウイルス病の発生要因を解明し、適切な栽培管理による発生抑制対策を提案しました。灌漑稲作、天水稲作の生態的特性を整理し、水管理や栽培技術を検討しました。当研究室では、タンザニアの稲作生産性向上と気候変動への適応の方策を提案し、アフリカの食料安全保障に貢献する研究を進めています。

エネルギー作物

化石燃料の代替となる再生可能エネルギーの確保は、地球温暖化対策の要です。中でもバイオ燃料は、カーボンニュートラルな燃料として注目されていますが、原料となる作物の多くは食料と競合するため、食料安全保障の観点から懸念があります。私たちは、非食用のセルロース系原料作物に着目し、その生産性向上と持続的栽培の実現を目指しています。エリアンサスとネピアグラスを有望な栽培対象として、根系調査、栽培技術の開発、栽培適地の特定など、様々な側面からアプローチしてきました。根系調査では、両種の深根性と高い根量が土壌の改善や炭素貯留に寄与することを明らかにしました。栽培技術では、ネピアグラスの条抜き多回刈り栽培による収穫期間の均等化と収量増加を実現しました。栽培適地の探索では、GIS解析と現地調査を組み合わせた手法を確立し、荒廃地での栽培の可能性を示しました。これらの知見と技術を統合し、セルロース系バイオ燃料の生産拡大に貢献することで、食料と競合しない持続可能な社会の実現を目指します。

作物の水利用

水は植物の生存に欠かせない資源であり、その獲得と利用の戦略は作物ごとに大きく異なります。特に、干ばつや水不足に直面する現代農業において、作物の水利用効率の改善は喫緊の課題と言えるでしょう。私たちは、マメ科作物、特にキマメとセスバニアに着目し、安定同位体を利用した水の動態解析や、根の構造と機能に着目した研究アプローチを通じて、作物の水利用の謎に迫ろうとしてきました。これまでの研究から、深根性のマメ科作物が水をめぐって興味深い適応戦略を持つことが明らかになりつつあります。私たちの目標は、作物の水利用の基本原理を解明し、それを農業現場に活かしていくことです。作物の水利用の研究は、食料問題という全人類的な課題の解決に向けた、重要な一歩となるでしょう。私たちは、基礎研究と応用研究を両輪として、この分野の発展に尽力していきたいと思います。