タンザニア稲作研究

タンザニアの持続可能なコメ生産に向けて

当研究室では、タンザニアの稲作生産性向上を目指し、多角的なアプローチで研究を行っています。

灌漑稲作では、基本技術パッケージの導入により収量が大幅に向上することを実証し、農家参加型アプローチによる技術普及の有効性を示しました。また、NERICA品種の適応性を様々な環境で評価し、多くの品種が普及に適していることを明らかにしました。

イネ黄斑モザイクウイルス病の発生要因を解明し、適切な品種選択や栽培管理による発生抑制対策を提案しました。灌漑稲作、天水低地稲作、天水陸稲の生態的特性を整理し、水管理や栽培技術を検討するとともに、バリューチェーンや市場価格の決定要因なども分析しました。

気象変動への適応策として、適期移植による冷害回避や、旱ばつ時の減収抑制効果を示しました。今後は耐冷性、耐旱性品種の利用や、水管理技術の改良などにより、さらなる適応策を講じる必要があります。

当研究室では、品種から栽培技術、普及手法、市場分析に至るまで多面的に検討し、タンザニアの稲作生産性向上と気候変動への適応の方策を具体的に提案しています。アフリカの食料安全保障に貢献する研究を今後も進めてまいります。

持続可能なコメ生産に向けて

私たちは、タンザニアの食料安全保障と農家の生計向上を目指し、マーケット志向のイネ研究を推進しています。消費者ニーズを踏まえた品種開発と栽培技術の改善に取り組み、バリューチェーン全体を俯瞰した研究を進めています。現場への研究成果の還元にも力を入れ、農家と協働した技術の実用化と普及を図っています。こうした取り組みを通じて、タンザニアのイネ生産の発展に貢献します!

イネ黄斑病ウィルスの制圧

タンザニアのイネ生産を脅かすイネ黄斑病ウィルス。私たちは、アフリカ稲作に大きな被害をもたらすイネ黄斑病ウィルスの現実的な防除技術を開発するため、感染拡大のメカニズム解明に取り組んできました。大規模な疫学調査と空間統計モデルを駆使し、感染リスクを高める栽培方法を特定。品種選択、わら管理、輪作などの改善で、まん延を防げることが判明しました。現場への普及活動を通じて、安定したイネ生産の実現を目指します!

基本的栽培技術の重要性

タンザニアの灌漑稲作の収量が伸び悩むのは、基本的な栽培技術の欠如に原因がた!?全国の灌漑地区を調査した結果、代かき、移植、施肥、水管理などの基本技術が十分に実践されていないことが判明。そこで、技術研修と農家間の技術交流を支援し、基本技術パッケージを導入。その結果、なんと平均収量が有意に増加!現地の在来品種でも基本技術の改善で増収できることを実証しました。タンザニアの稲作発展に向け、さらなる技術普及に取り組みます。

農家間普及システムの構築

優良品種や栽培技術を農家に広く普及させるには?その鍵は、農家間の技術交流にあった!私たちは新たな普及システムを提案。農業研修機関が技術の中核農家を育成し、中核農家が実証圃場での栽培を通じて周辺農家に技術伝達する「農家間技術移転」のシステムです。アフリカ稲NERICAを題材に効果を検証したところ、中核農家から周辺農家への技術移転は着実に進展。一方、研修を受けていない農家への普及は限定的で、普及員の関与の重要性も明らかに。システムのさらなる改善を進め、タンザニアの稲作振興に貢献します!

ザンジバルでのNERICA試験

タンザニアの稲作を変える救世主となるか?NERICA品種の適応性を、多面的に評価!ザンジバルでの多点圃場試験の結果、長い雨期にNERICAは在来品種を凌ぐ多収を示しました。収量変動は生育後半の降雨と関係し、短い雨期では水管理の改善が必要と判明。さらに、食味試験の結果、NERICA 1が高評価を獲得! 多収性と良食味性を兼ね備えたNERICAに、タンザニアの稲作振興の希望が見えてきました。品種特性に応じた栽培技術の確立を進め、NERICAの普及に弾みをつけます!

移植時期の重要性

タンザニアの灌漑稲作で多収を実現するには、適期移植が鍵!水稲4品種の周年移植試験で解明。7月移植が最多収、4月移植が最少収を記録。収量の季節変動パターンは品種間で共通し、高温・低温障害が関与していると推察されました。この知見を活用し、灌漑地区ごとの最適移植時期の提案や、気象障害回避技術の開発に取り組みます。タンザニアの灌漑稲作の生産性向上に向けて、技術発信を続けます!

イネ黄斑病アウトブレイクを防除する栽培技術:空間的自己回帰分析による解明

【概要】
サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)では、都市化や食生活の変化によりコメ消費量が急激に増加しています。しかし、コメの生産性は低く、多くのサブサハラ・アフリカ諸国がコメ需要の増加を輸入量の増加でまかなっています。この地域で生産性が高まらない主な理由は、水不足や機械化の遅れなどの問題に加えて、イネ黄斑病の異常発生(アウトブレイク)があげられます。三重大学の研究グループは、タンザニア連合共和国で発生したイネ黄斑病のアウトブレイクを調査し、病害クラスターの発生に強く関係する栽培技術の特定に成功しました。これまで、イネ黄斑病に対して有効な手立てがありませんでしたが、本研究で特定した栽培技術を改良することで、低コストかつ持続的に病害を防除し、アブサハラ・アフリカの稲作の生産性を高められる可能性がでてきました。この研究成果は、2022年2月24日、持続可能な農業や食料供給に関する世界的な学術誌『Agronomy for Sustainable Development』にオンライン掲載されました。

【背景】
イネ黄斑病はRice yellow mottle virus(RYMV)というアフリカ地域に存在するウイルスによって引き起こされるイネの病害で、サブサハラ・アフリカの稲作に甚大な被害をもたらす重大病害の一つに数えられています。従来、RYMVに感染したイネから近隣の健全なイネへの接触感染に関する個体レベルの知見や、RYMVの起源である東アフリカから西アフリカへの伝播に関する大陸レベルの知見が多く蓄積されてきました。ところが、個体と大陸の間をつなぐ地域レベルでアウトブレイクが発生するメカニズムについてはほとんどわかっておらず、いわばミッシングリンクとなっていました。この研究は、地域レベルでの発生メカニズムを明らかにし、これまで手立てがなかったイネ黄斑病の防除法の確立を目指したものです。

【研究内容】
この研究では、三重大学が主導する研究グループ1が、タンザニア連合共和国で発生したイネ黄斑病アウトブレイクを調査しました。 植物病理学(ウイルス検出)、作物学(栽培技術調査)、経済学(生産者調査、計量経済分析)の3分野を融合させて空間的自己相関モデル2を構築し、病害クラスターの発生と強く関係する栽培技術の特定に成功しました。つまり、栽培時の手法や条件のいくつかが病害クラスターを誘引する要因となっていたことを明らかにしたものです。
また、農学分野では小規模な栽培実験でしか活用できなかった空間的自己相関モデルが、聞き取り調査などの簡易的な手法を駆使することで、広域的な調査にまで拡大できることも証明されました。

【今後の展望】
従来、イネ黄斑病に対しては有効な手立てがありませんでした。本研究を通じて、RYMVの病害クラスター発生に関わる個別の栽培技術が特定されたため、これら個別技術を改良することで、低コストかつ持続的にRYMVアウトブレイクを抑制できる可能性がでてきました。そうした栽培技術の改善は、サブサハラ・アフリカの稲作の生産性を高め、安定した食料生産に貢献することが期待されています。

【用語解説】
*1:三重大学大学院生物資源学研究科の関谷信人教授と中島亨准教授、国際協力機構(JICA)の大泉暢章技術協力専門家と冨高元徳技術協力専門員、東京農業大学の夏秋啓子教授、ソコイネ農業大学のNaswiru Tibanyendela講師、キリマンジャロ農業研修所のMchuno Alfred Peter氏が参画した国際共同研究グループ。
*2:イネ黄斑病発症の有無(被説明変数)を生産者が実践する各種栽培技術(説明変数)に対して回帰させる重回帰式の中に、空間的近接性(空間的自己相関≒距離の近い水田ほどイネ黄斑病を発症しやすい≒クラスターができやすい)を説明変数として考慮するモデル。

タンザニア稲作における基本技術の重要性

この研究成果は「Paddy and Water Environment」誌にオンライン掲載されました。

タンザニアにおける灌漑稲作の生産性は低く推移していました。私達は、タンザニアの灌漑稲作においては基本技術の実践度が低いことにより生産性が低いという仮説を立てました。その仮説のもと、全国31カ所の灌漑地区(全対象面積:約2万ヘクタール)で現況調査を実施したところ、大部分の栽培面積において基本技術が実践されていないことが判明しました。そこで、農家間普及手法により灌漑稲作の基本技術パッケージを31地区へ導入しました。本手法では、まず選抜された中核農家が農業研修所において灌漑稲作の基本技術を習得しました。次に、中核農家は地区内に設置した展示圃場において中間農家と協働することで,習得した技術を中間農家へ伝達しました。最後に中核・中間農家は展示圃場の成果を一般農家へ披露しました(全対象農家数:約2万農家)。その結果、全国31灌漑地区全体の平均収量は,研修前の2.4t/haから3.6/haまで大きく増加しました。しかし、研修後に4灌漑地区を抽出して農家への聞き取り調査を実施したところ、農家間普及手法では技術伝播に長時間を要するため、基本技術パッケージが全農家に採用されていないことが判明しました。本研究は,タンザニアにおける灌漑稲作の低生産性が基本技術の欠落に起因する可能性を示唆しましが、研修後の平均収量は品種選抜試験や優良灌漑地区において報告されている高収量(4.3~8.4t/ha)と比較すると相対的に低い水準に留まっています。この「収量ギャップ」は、技術伝播が不十分であり、且つ一般農家が個別技術の採用を躊躇したことに起因する可能性が示唆されました。

2018年7月~12月 タンザニア圃場試験

タンザニア水稲の水利用効率改善技術と農民間普及アプローチによる技術普及法開発

2018年3月 タンザニア研修旅行

国際協力に要する能力とは何か? ― 最前線のプロジェクトから学ぶ ― (三重大学国際交流事業)

2017年3月 タンザニア圃場試験視察

タンザニア水稲の水利用効率改善技術と農民間普及アプローチによる技術普及法開発

2016年6月 タンザニア圃場試験視察

タンザニア水稲の水利用効率改善技術と農民間普及アプローチによる技術普及法開発