

気候変動と米生産
地力制御を目指す
【キーワード】
水稲・土壌有機物・窒素栄養・温暖化・理論と応用・有機農業・生産現場・ローカルとグローバル(地域から世界へ)

慣行栽培の限界
緑の革命の功罪
第二次世界大戦以降の爆発的な人口増加で世界的な食料不足の懸念が広がったものの、「緑の革命」による作物生産量の増加で、その懸念は大きく払拭されました。「緑の革命」は様々な技術により支えられていますが、中でも化学肥料の投入は最も重要な技術の一つであったと言えます。今では世界のありとあらゆる作物生産において、化学肥料の投入を前提とした栽培技術が作りあげられています。
しかし、農地に投入される化学肥料のうち作物に吸収される割合は多く見積もっても50~60%程度、肥料の種類によっては10%に満たない場合もあります。すなわち、化学肥料を投入するということは、肥料の合成過程で消費した多量のエネルギーを農地へ廃棄しているような側面があるのです。作物に吸収されることなく周辺環境へ流出する肥料成分は、地下水汚染や湖沼の富栄養化を引き起こすことも指摘されています。
また、肥料の原料となる鉱物資源は今世紀中に枯渇するとも予測されています。ここ10年ほど世界の肥料価格は上昇し続け、ウクライナ危機がその傾向に拍車を掛けたことで、肥料を輸入に依存する我が国の農業は大きな打撃を受けています。このように、農地への化学肥料の投入は二重三重の環境負荷だけではなく、農業経営にも大きな負荷をかけ始めているのです。今や、化学肥料に代わる作物生産技術の開発は、今後の食料生産ひいては人類の生存に大きく貢献することが自明になりつつあります。

イネは土でとる
イネは土壌有機物
と微生物に依存
昔から「イネは土でとり、ムギは肥料でとる」と言われてきました。これは、イネ植物体が吸収する土壌栄養のうち、肥料に由来する割合よりも、土壌有機物に由来する割合の方が大きいことを意味しています。それでも慣行栽培では化学肥料由来の割合が30~50%と比較的高いのですが、有機栽培では10~30%と低下し、イネ植物体が大きく土壌有機物に依存していることが分かります。
基本的に、土壌有機物は微生物によって分解され、無機栄養の状態になって初めて作物に吸収されます。微生物が有機物を分解する速度は周辺の温度によって大きく変動するため、地球温暖化は分解を加速させ、短期的には栄養の吸収量を増加させる一方で、長期的には過剰な分解によって土壌有機物が消耗する可能性も指摘されています。私たちは、作物が土壌有機物から無機栄養を獲得する過程を詳細に調査することで、化学肥料へ過度に依存した現代の作物生産技術を改善し、気候変動に適応できる作物生産技術を確立しようとしています。

コメ生産科学
異分野を融合し
現場課題に挑む
「緑の革命」が残した「負の遺産」を乗り越え、気候変動下でも持続可能なコメ生産体系を確立するため、私たちは作物学、土壌学、微生物学、食品化学、農業経済学の専門家に加えて、自治体関係者や農家で構成される異分野融合型チームを立ち上げ、一体となって研究に取り組んでいます。それは、激動の時代に象牙の塔へ閉じ籠っていては、現実と研究がこれまで以上に乖離し、研究成果が生産現場に適用されないという二の舞を繰り返すだけになる可能性を恐れるからです。生産現場で直接的な調査・研究活動を展開することで、現場の課題を現場で解決し現場に適用させることが可能になるはずです。大学内に造成した試験農地だけではなく、実際の農地を対象に分析を進めることで、現実の作物生産活動に還元可能な成果を出すように努めています。
地域と共に

地域から世界へ

つじ農園

中勢地域
青山高原

学内圃場

京都府
与謝野町

サンプリング

ガーナ
JICA海外協力隊

ケニヤ
陸稲NERICA

コメントを投稿するにはログインしてください。