
コメの官能評価と情報
消費者は米の情報も“味わっている”?!
食味評価を変える情報提供の不思議な効果
全く同じコメを食べているはずなのに有機栽培であることを説明すると美味しく感じてしまう。私たちは、そんな興味深い現象を科学的に実証しました。
環境負荷を軽減し持続的な食料生産を達成する栽培技術として、有機栽培が注目されています。しかし、農業者を有機栽培へ誘導する政策が各国で施行されているものの、その栽培面積は依然として限定的であるのが現状です。政策誘導も大切ですが、根本的には消費者需要を喚起して市場を拡大させ、水稲有機栽培に対する農業者の意欲を後押しすることこそが重要です。
消費者は、その食品が有機栽培されたという情報を伝達されると、その有機食品に対する官能評価(味わい体験)を有意に向上させることが報告されています。また、官能評価と購買意欲には強い関係があることも報告されています。そこで私たちは、有機栽培の情報やそれに取り組む生産者の情報を開示することで、有機米に対する消費者の官能評価が向上し、購買意欲の向上へつながるのではないかと考えました。
そこで、三重大学職員211名を無作為に2グループへ振り分け、2つのランダム化比較試験を実施しました。第1実験では有機栽培米と慣行栽培米の食味試験を行い、栽培方法に関する情報開示の効果を検証し、第2実験ではパッケージデザインと生産者情報が消費者評価に与える影響を調査しました。その結果、有機栽培に関する情報を開示すると有機米の味を好む回答者の割合が31.8%から44.8%に上昇し、有機米を再度食べたいという意向を示した回答者も16.4%から34.4%に増加しました。生産者情報の開示は味の評価には影響しないものの、有機米を再度食べたいという意向を17.3%から29.4%へと向上させることが明らかになりました。
次に、ロジットモデルと順序ロジットモデルを用いて、消費者の個人属性が食味評価に与える影響を詳細に分析しました。その結果、有機米の味を好む消費者は有意に有機米を再度食べたいという意向を示すことが確認されました。また、食へのこだわりが強い消費者ほど有機米を再度食べたいと思わないという興味深い相互作用も見出されました。
以上の結果は、栽培方法や生産者に関する適切な情報を提供することで、有機米に対する消費者需要を高められることを示しています。また、食へのこだわりが必ずしも有機米の評価に直結しないという発見は、消費者コミュニケーションの新たな方向性を示唆しています。今後は、この研究をさらに発展させ、有機米の価値をより効果的に消費者に伝える方法を探究し、持続可能な水稲生産技術の普及に貢献していきたいと考えています。
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