Zanzibar

2009年4月17日

Coalition for African Rice Development(CARD)準備調査の一環で名古屋大学浅沼教授と農業・畜産・環境省を訪問。次官を表敬訪問し,調査背景を概説した。灌漑局長および職員、農業・研究・普及局長および職員と面会し、Zanzibarにおける稲作の現状、イネ関連プロジェクトの現状、イネ研究および研修の現状について聞き取った。Kizimbani農業試験場へ移動し,種子増殖用NERICA圃場および施設を見学した。その後,Kibokwa稲作地帯へも移動し,Farmers Field School(FFS)参加農家と面会。FFSが実施する種子増殖用圃場および草の根無償で設置した灌漑施設も見学した。

<ザンジバル農業・畜産・環境省>

ザンジバル農業・畜産・環境省は、CARDプロセスの中でザンジバルが蚊帳の外に置かれていると強く感じているようだ。昨年ナイロビで開催された第1回本会合においてザンジバル代表の参加を拒絶されたこと、またNational Rice Development Strategy(NRDS)について全く関知していなかったことが原因のようだ。前者については、タンザニアを二国として扱わないというCARD事務局の判断であり、本土が意図的にザンジバルを排除したわけではないと説明。後者については、本土側にザンジバルへの配慮が掛けていた側面もあるが、両農業省間で緊密な交流が行われてこなかった歴史的側面も影響しているため、今後は積極的に情報交換を促進するよう依頼した。

<Kibokwa(Kilombero)稲作地帯>

Kibokwa稲作地帯(2,000ha)はZanzibar Irrigation Master Planの中で灌漑可能地域に特定されている。草の根無償資金およびKOICAの支援により一部地域で灌漑が行われているものの面積の大部分は未だに天水田のままである。この広大な土地を灌漑するには20カ所以上に井戸を掘削し揚水ポンプを設置しなければならず、持続性の点から灌漑プロジェクト実施には大きな疑問がある。しかし、今シーズンは大雨期、小雨期とも少雨であり、農家の貯蔵食糧は大きく減少することが予想される。さらに、気候変動がこの少雨傾向を加速させるとも予想されている。持続性を度外視し,井戸掘削プロジェクトを実施するべきなのか?悩ましいところである.

2009年12月28日~30日

NERICA種子生産圃場視察、NERICA普及方法に関する打ち合わせ、東京農大 夏秋教授ザンジバル訪問に関する打ち合わせ、NERICA農家圃場試験に参加した農家との意見交換のために訪問した.

<NERICA種子生産>

水不足の影響により、予測種子量(6t~8t)の確保は困難な状況である。Chejuでは、参加した8農家のうち2農家の圃場で全植物体が枯死していた。残る6農家では、育苗期間中の水不足で苗数を確保できず、予定面積(0.1ha/farmer)を大きく下回る面積(0.05ha~0.08ha)で栽培されていた。さらに、移植後の水不足と雑草害による生育不良も目立っていた。Mtwangoでは、参加した12農家のうち5農家の圃場で全植物体が枯死していた。残る7農家では、育苗期間中の水不足で苗数を確保できず、小面積(0.05ha~0.08ha)で栽培されていた。そのうち3農家の植物で水不足による生育不良が観察されたものの、4農家の植物は順調に生育していた。 Chejuの植物は登熟期を迎え、Mtwangoの植物は生殖生長期に移行した直後であった。したがって、2月下旬には全圃場で収穫作業が終了するだろう。現在の生育状況から、最大で1.5t~2tの種子量を確保できると予測している。

<NERICA普及>

Mr. Khatibは、増殖した種子を農家へ普及する具体的な方策を用意していなかった。タンライスが計画する農家研修と展示圃場による普及方法を披露したところ、ザンジバルでの同様な活動に対するタンライス支援の可能性について打診を受けた。可能性は低いと回答しつつも、議論に値するため、早急に普及計画を作成してタンライスに提出するよう指示した。

<RYMV>

Rice Yellow Mottle Virus(RYMV)が発生したというMwera灌漑地区を訪問。感染個体は当然のことながら除去されていたものの、周辺個体にも感染の痕跡が認められた。そこで、夏秋教授の来訪時期に病徴が発現するよう、それら周辺個体を接種源としてポット稲にRYMVを接種することを依頼した。また、夏秋教授の来訪時期は育苗期にあたり、通常の栽培暦に従った場合、圃場条件下で感染個体を観察するのは難しい。そこで、夏秋教授の来訪時期に病徴が発現するよう、感染個体を観察した地点で稲を栽培することを依頼した。

<NERICAに対する農家の期待>

農家圃場試験では、NERICAの収量(2t/ha)が対照品種(BKN SUPA)の収量(0.3t/ha)を大きく上回り、参加農家のみならず周辺農家に大きなインパクトを与えたようだ。NERICA種子に対する需要が高まっているそうだ。

2010年6月7日~8日

ZanzibarのNERICA栽培農家を視察した.Kizimbani農業試験場は,既にCentralの17農家、Urban Westの7農家を訪問している.今回は、Centralの優良1農家を再訪問し,加えてNorthBの7農家と農業普及所の3展示圃場を訪問した。各圃場でのNERICA栽培状況は以下の通り。

<①North B県農業普及所>

North B県における種子配布を担当。敷地内2箇所に展示圃場を設置。第1圃場では3-4t/ha、第2圃場では2-3t/haの収量を見込める程度に生育。まずまずの出来具合。

<②Mr. Seif Jafar>

沼地から駆け上がる傾斜地にて無施肥で栽培。林を切り開いた処女地では1.5-2t/ha程度に生育したものの、キャッサバの後作地では0.1-0.3t/ha程度に生育が阻害されていた。全体では,0.4-0.8t/ha程度の収量。

<③Ms. Asha Hamis Saidi>

灌漑地区内の均平されていない区画で栽培。高い位置では3-4t/ha程度に生育していたものの、低い位置では湿害により0.2-0.5t/haに生育が阻害されていた。全体では、1-1.3t/ha程度の収量。

<④Mr. Haroub Juma Mohamed>

山林の一画を切り開いて栽培。条播、施肥を実施し、4-5t/haを見込める程度に生育。しかし、播種時期が遅く、出穂期に雨期が終了しつつあり、減収の可能性大。

<⑤North B県農業普及所支所>

North B県における種子配布を担当。敷地内に展示圃場を設置。2-3t/haを見込める程度に生育。しかし、播種時期が遅く、開花期に雨期が終了しつつあり、減収の可能性大。

<⑥Mr. Kombo Juma Kundi>

元々の陸稲栽培農家。林を切り開いた処女地では2-3t/ha程度に生育していたものの、キャッサバの後作地では0.5-1t/ha程度に生育が阻害されていた。全体では、0.7-1.3t/ha程度の収量。

<⑦Mr. Yussuf Faki Hamis>

灌漑地区の周縁部に位置する一区画で栽培。湿害により生育が大きく阻害され、収穫は見込めない。

<⑧Mr. Osman Kasim Foum>

灌漑地区から駆け上がる傾斜地のキャッサバ後作地に栽培。施肥まで実施したにも拘わらず収穫は見込めない。

<⑨Mr. Ali Hamis Haji>

丘の緩やかな斜面にてソルガム後地に栽培。鶏糞+尿素区では1-1.5t/ha程度に生育したものの、尿素区では収量は見込めない。全体では、0.2-0.3t/ha程度の収量。

<⑩Mr. Haji Jungo Juma>

丘の頂上付近で林を切り開いて栽培。条播、施肥を実施し、4-5t/haを見込める程度に生育。

<NERICA生育不良の原因>

Kizimbani農業試験場の研究員の話によれば、これまでにモニタリングした31農家の中で、予測収量が1.5-2t/haを超える程度の良好な生育を確保できたのは、たった2農家であった。その内の1農家が⑩Mr. Haji Jungo Jumaである。Mr. Jumaは山林を切り開いた処女地でNERICAを栽培し、高収量を確保した。②Mr. Jafar、④Mr. Mohamed、⑥Mr. Kundiも処女地で栽培し、好成績を挙げた。逆に、②Mr. Jafar、⑥Mr. Kundi、⑧Mr. Foum、⑨Mr. Hajiは、キャッサバやソルガムの後作としてNERICAを栽培し、大きく減収した。キャッサバ、ソルガムは吸肥力が高いことで知られている。これらの結果は、土壌養分欠乏がNERICA生育を阻害した可能性を示唆している。また、③Ms. Asha Hamis Saidiの圃場では、低い位置で生育したために冠水した植物体の収量は大きく減少したのに対して、高い位置に生育した植物体は好成績を挙げた。⑦Mr. Yussuf Faki Hamisの圃場は全体が冠水し、全く収量を見込めない事態に陥った。これらの結果は、湿害によりNERICA生育が大きく阻害されたことを示唆している。

<NERICA普及における注意点>

NERICA普及にあたっては、以下の諸点に留意する必要がある。

①元々の陸稲栽培地に導入すること

これまでに陸稲が栽培されてきたからには、十分な降水量を期待できる。

②前作は陸稲かマメ作物であること

キャッサバ等の吸肥力が強い作物の後作では、養分欠乏に陥り、減収する可能性が高い。

③天水田では移植が必要か?

NERICAは、過湿条件で生育が阻害され、減収するという観察事例がこれまでに蓄積してきた。発芽が阻害されるのか、根系発達が阻害されるのか、そのメカニズムは不明だが、過湿条件で減収するのは間違いないなさそうだ。ところが、KATC栽培試験やMtwango(Zanzibar)種子増殖のNERICAは、水田条件下でも移植により好成績を挙げた。直播では生育初期に湿害を受けるのに対して、移植では湿害を回避できるのかも知れない。したがって、天水田での栽培には移植が必要になるのかも知れない。

<NERICAこぼれ話>

ザンジバル南部はサンゴが風化してできた土壌(Coral rag)が広がり、作物栽培には不適である。もちろん稲作の歴史などない。ところが、当地でNERICAが好成績を挙げており、ザンジバル政府首相(Chief Minister)が注目しているとのこと。首相は側近およびMr. Khatibを引き連れ、当地を訪問する予定らしい。また,ザンジバル農業大臣、農業省PS、農業研究普及局長がNERICA1の食味を絶賛したのこと