Zanzibar Study Tour

2009年6月23日~25日

タンザニア本土の試験場研究員,研修所教官を同行し,Zanzibar視察旅行を実施した.

<Zanzibar農業・畜産・環境省表敬訪問:第1日目>

Zanzibar農業・畜産・環境省を表敬訪問し、Mr. Khalid Mohamed(事務次官)、Mr. Mberik Rashid Saidi(農業・研究・普及局長)、Mr. Ramadhan Aseid(灌漑局長)と会合を持った。研修参加者による自己紹介に引き続き、富高チーフアドバイザーがタンライスの概要および本研修旅行の目的(技術研修およびTANRICE一般研修に関する打ち合わせ)を説明した。その後、ザンジバルにおける米生産および農業・畜産・環境省における米政策の概要を事務次官から拝聴し会合を終了した。

<Mtwango灌漑地区:第1日目>

ザンジバルの代表的な灌漑地区(70haから88haに拡大)。地下水ではなく表層水を利用する数少ない灌漑地区の一つ。灌漑施設は老朽化しているものの何とか維持管理されている。ただし、水が不足し全面積を一気に灌漑できないため、6ブロック毎に時期を分けて灌漑している。灌漑時期が異なることに加えて4品種が混在するため、区画毎にイネの生育差が顕著に表れていた。富高チーフアドバイザーが各品種の名前について研究員に質問したところ、意見が百出し、農家も巻き込んで議論が盛り上がっていた。

<NERICA現地適応化試験農家圃場(Mr. Mjombo Iddi):第1日目>

ザンジバルはAfrican Institute of Capacity Development(AICAD)の支援を受けてNERICA栽培試験を実施している。これまでにKizimbani農業研究所で1回の予備試験を実施し、Unguja島3ヵ所とPemba島2ヵ所で2回のMulti-locational trialを実施した.現在はMr. Mjombo Iddiを含めた10農家で農家圃場試験を実施している。

<技術研修(試験地選定法、試験圃場作成法、播種法、収穫法):第2日目>

Kizimbani農業研究所の主任研究員であるMr. Khatib Juma Khatib(最左端写真中央)を講師に招き、陸稲栽培試験における試験地選定法、試験圃場作成法、播種法、収穫法の技術研修を実施した。Mr. Khatibは、坪井専門家(ウガンダ)から習得した技術を自らの試験において忠実に実践し、精度の高いデータを収集している。本土の研究員も同様に坪井専門家の指導を受けているにも拘わらず、収集されるデータの精度は非常に低い。座学で学んだ理論を実践に移すには、補助用具の作成や作業補助者の連携調整といった細かい技術が要求され、こうした技術の有無が研究者の良し悪しに大きく影響する。本土の研究員には、坪井方式という好例に従う真摯な態度が不足していることもあるが、そうした技術が欠如している可能性が非常に高い。そこで、Mr. KhatibがAssistantおよびCasual workerと共に坪井方式を実践していく技術を実地で体感することにより、実践技術の習得およびデータ精度の向上に役立てることを企図した。

最初に実施した「試験地選定法の解説」時には、イネ研究員が斜に構えた少々意地の悪い質問を連発し、研修の行く末を案じさせる雰囲気が漂っていた。ところが、「試験圃場作成法」「播種法」「収穫法」の実技研修に移行し、Mr.Khatibが次々に実践技術を披露し始めると、まずは研修教官が積極的にMr.Khatibの指導を請うようになり、続いて若手研究員も彼の声に耳を傾け始め、最後にはベテラン研究員も素直に作業に加わるようになっていった。やはり、Mr.Khatibの実践技術には、それなりの説得力があったのだろう。

ザンジバルの農家圃場試験では、本土における「1農家1反復試験」とは異なり「1農家2反復試験」の設計が採用されている。「試験地選定法の解説」時、1反復ではなく2反復である理由についてMr. Lussewa(Ukiriguru農業試験場)から質問が出た。ちょうど良い機会であったため、それまでに調査済みの農家圃場試験に関する情報、①「1農家1反復試験」に対しては賛否両論存在すること、②「1農家1反復試験」には満たすべき前提条件が存在すること、③「1農家1反復試験」の条件を満たすには多額の予算が必要になるのに対して「1農家複数反復試験」は比較的低予算で実施可能であること、を解説した。そして、他の研究員から出された質問に答え行く過程で、Rice Research Programが実施している試験方法ではデータを統計学的に解析することが困難であるという一応のコンセンサスに到達することができた。

<NERICA食味試験:第2日目>

タンザニアで最も人気の高いMbeya(Kyela)米とNERICAの食味を比較する目隠しの食味試験を実施した。昨年KATCが増殖したNERICA1、2、4と富高チーフアドバイザーが6月初旬にKyelaで買い付けたKyela米を炊き、色、香り、食感、味等々を総合的に判断し4品種を順位付けた。専門家も含めた15名の参加者のうち、何と8名の参加者がNERICA1を最高食味とし、Kyela米を最高食味とした6名を上回る結果となった。専門家も研究員もこの結果に驚くと同時にNERICA普及へ向けた大きな期待を抱いた。

<技術研修(データ収集法):第3日目>

第2日目に引き続き、Mr. Khatibが陸稲栽培試験におけるデータ収集法の技術研修を実施した。ここでは、収穫した植物体を用いて①穂数測定、②穂長測定、③脱粒性検定、④稔実籾-不稔実籾分離、⑤全稔実籾重および全不稔実籾重測定、⑥5g稔実籾重および粒数測定、⑦1g不稔実籾重および粒数測定、⑧含水量測定、という一連の測定作業を実施し、測定データを元に⑨1株あたり穂数(単位面積あたり穂数)計算、⑩1穂粒数計算、⑪稔実歩合計算、⑫千粒重計算、⑬収量計算、という収量構成要素の計算作業を実施した。

Mr. Khatibは、坪井専門家による研修と遜色ないほどに上手く研修を実施していた。また、一時中座したMr. Khatibに代わって講師を務めたMs. Subira(Assistant Researcher)も滞りなく研修を進めていた。それとは対照的に、本土の研究員は坪井専門家の指導した紙箱作成法を誰も記憶しておらず、Kilombero農業研究研修所の研究員は「⑤~⑧を測定してなぜ収量構成要素が分かるのか?」と耳を疑うような質問をするなど、本土とザンジバルの間で研究員の質が大きく異なることが如実になった。この事実は本土の研究員を大いに刺激しただろう。

<所感>

研修旅行は6月23日から6月25日に実施された。これは、Kizimbani農業研究所のイネが収穫される直前の期間であると同時に、参加した各専門家がそれぞれの業務との兼ね合いで収穫前に時間を捻出できる唯一の期間であった。当初、他業務が立て込み時間を捻出できない公算が強く、ギリギリまで研修旅行を延期する可能性を探っていた。そうした事情から、数日間で航空券の手配や研修プログラムの打ち合わせ作業を進めざるを得なかった。それにも拘わらず、大きな問題もなく研修を終了できたのは、ひとえにMr. Khatibを始めとするKizimbani農業研究所スタッフの尽力のお陰であろう。また、準備不足のため研修内容に一抹の不安を抱いていたものの、これまたMr. Khatibのお陰で期待を遙かに超える上質の研修を実施できた。願わくは、研修日数を1日増加しデータ収集法の時間を増やせれば良かった。本土ARIとKizimbani農業研究所の交流促進は、相互の能力強化に大いに貢献すると確信した。