Kyela

2009年5月5日

Kyelaはブランド米の産地である.Kyela(Mbeya) riceと言えば良食味米の代名詞となっており,全国の市場において,他産地米より高値で取引されている.Kyelaの農家圃場で実施したNERICA栽培試験を視察した.

<周辺農家>

Mr. Mwakyangeの圃場を視察していると、周辺農家のMr. AliとMr. Absalomがやってきた。彼らは、NERICAの早熟性に大変興味があるとのこと。それぞれの穂をじっくりと観察し、NERICA7とWAB 450-12-2-BL1-DV4の穀粒は、外観がKilomberoに酷似し、脱粒性も良いことから市場競争力があると断言していた。

<畑地と天水田に対するNERICAの適応度>

Kyelaの農家圃場を視察し、天水田でのNERICA栽培には注意が必要であるとの思いを再度強めた。圃場1と圃場2では、ほぼ同時期に播種しているにも拘わらず、圃場1のイネは出穂直後で、圃場2のイネは既に登熟期の後半を迎えていた(左図)。両圃場は近接しており、気象条件が極端に異なったとは考えにくい。特に顕著な病虫害被害も観察することはできなかったため、土壌条件の違いが生育差を生み出したと考えるのが妥当であろう。両圃場には、同様に施肥していることから土壌養分の要因を排除できるとすると、土壌物理性、特に土壌水分が大きく影響していると考えざるを得ない。ザンジバルの天水田で実施した試験では、播種直後の冠水が初期生育を大きく阻害し、収量を大きく減少させた。圃場1では、前日の雨で圃場が冠水していたが、圃場2では、土壌表面が既に乾燥していた。圃場2の農家の証言によれば、圃場2は圃場1に比べて水不足になりやすいとのこと。以上、傍証ばかりであるが、圃場1(天水田)では過湿状態によりNERICA生育が阻害されたのに対して圃場2(畑状態)では水はけが良く適湿が保持されためNERICA生育が良好であった可能性が高い。この仮説が正しい場合、多雨地帯の天水田で直播を行う農家に対してNERICAを普及する際には栽培上の注意喚起が必要であろう。

<農家栽培品種と品種に対する農家の印象>

今回訪問した地域の農家は、イネを天水田および畑地で栽培している。したがって、農家は耐乾性の強い水稲品種、あるいは陸稲品種を栽培していた。以下に各農家の写真と農家の栽培品種、さらに、それぞれの品種に対する農家の印象を記述した。

Mr. Mwabuhango(NERICA農家圃場試験参加農家)

Kilombero

Rangimbili(Indiarangi)

Zambia:上記2品種に次いで市場競争力がある

Faya:食味は最高だが低収量性→自家消費のみ

Mwasungo:Fayaに次いで良食味→自家消費のみ

Mr. Mwakyange(NERICA農家圃場試験参加農家)

Kilombero:大粒径、良脱粒性

Rangimbili:良脱粒性

Zambia:上記2品種に次いで市場競争力がある

Mwasungo:食味は良いが市場競争力がない→自家消費のみ

Mwarabu:マラウィからの密輸品種.栽培試験中

Mr. Mwasimba(試験参加農家)

Kilombero:環境に適応し市場競争力がある

SUPA:乾燥耐性、Kilomberoより食味が落ちる→自家消費のみ

Mr. Mwambeye(NERICA農家圃場試験参加農家、写真取忘れ)

Kilombero:天水田用

Zambia:水田用

Rangimbili:天水田用、上記2品種に次いで市場競争力がある

Mwangulu:かなり食味が悪いが高収量性(Kilomberoの約4倍)

→食糧不足に備えて栽培

Mr. Ali(周辺農家)Mr.Absalom(周辺農家)

Kilombero:市場競争力がある

Zambia

どの農家も、FayaやMwasungoが食味の点で他の品種よりも優良だと感じている。ところが、仲買人はKilombero、Rangimbili、Zambiaを要求するため、農家はFayaやMwasungoの栽培面積を減少させるか、あるいは全く栽培しないようになったとのこと。

Mr. Mwambeyeが栽培しているMwanguluは、ほとんどの農家が少量の種子を保持している品種だという。食糧が十分にある時は決して口にしたくない程にまずいコメだそうだ。不良環境で高収量性を発揮するため、万が一の事態に備えてアリ塚の上などに適当に播いておく習慣があるらしい。Mr. Mwambeye は昨年のNERICA食味試験に参加していないためNERICAとMwanguluの食味比較をできなかったが、試験に参加したMr. Mwasimbaによれば、両品種は同程度の食味だそうだ。つまり、NERICAを通常の栽培品種としては採用する農家は少なく、非常食として取り扱う農家がほとんどであろうというのがMr. Mwasimbaの見解であった。