KATC

2010年5月5日

KATC網室内の展示圃場で栽培するイネ植物体に黄変症状が発生した。当初、病害が疑われたものの、取水口から排水口へ向かって症状が伝播していること、根系生育が著しく阻害されていること、水耕栽培において溶液pH制御を失敗したときの症状に酷似していることなどから、灌漑水pHに問題があると推測した。しかし、灌漑水pHが急激に変動することは考えにくいことに加えて、観察日から遡ること数日前に突然症状が拡大し始めたという証言から、除草剤投入に原因を求めた。ところが、Rice Sectionの教官によれば、本圃場での除草剤使用の履歴はない。そこで、灌漑水pHを測定したところ8.0~9.5という非常に高い値を示し、灌漑水の高pHが生育障害の原因である可能性が高まった。しかし、使用したpHメータが誤作動を疑わせる反応を示したこと、同じ水源に依存する隣接圃場では網室内圃場ほどに深刻な被害は出ていないことなどから、最終的な結論を出すには到らなかった。しかも、より多くの判断材料を得る目的で、Lower Moshi灌漑地区の灌漑水pHを測定したところ、取水堰周辺では7.5~7.6と中性に近い値を示したものの、水路では8.0~8.5と高い値を示し、それも下流ほど高い値になることが判明した。ところが、灌漑水が水路から水田に移動した途端、pHは一気に下降して7.0~7.2になっていた。これら諸現象を統一して説明する理論を早急に見出さなければ問題が拡大する可能性がある。

2011年4月14~18日

<毎月植え試験におけるデータ収集>

毎月植え試験におけるデータ収集法について研修員を指導した.毎月植え試験は,異なる4品種(IR64,SARO5,Wahi wahi,NERICA1)のイネを毎月末に移植し,その収量を品種間および月(季節)間で比較する.

毎月植え試験を視察した荒木准教授(山口大学)は,その科学的意義を以下の3点において高く評価した.

①イネ研究の先進地帯である東アジアでは,冬場の低温のために,毎月植え試験は実施されていない.

②4品種は,草型,生育期間,感光性等々が異なり,移植時期によって生育の仕方が大きく異なる可能性がある.知見の蓄積した国際品種IR64とそれ以外の品種を比較することで,新知見を得られる可能性がある.

③両研修員は,イネの登熟に対する節水栽培の効果を研究する.登塾は,季節(気温や日射量)によって大きく影響されるため,登熟に対する節水栽培の効果も季節変動する可能性がある.タンザニア品種における登熟の季節変動を把握できる毎月植え試験は,両研修員の研究に重要な情報を提供する.

そこで,Mr. Shayoは,3月から,毎月植え試験における本格的なデータ収集を開始した.今回は,Mr. Shayo(KATC教官)に新たなデータ収集法を指導するすると同時に,Mr. Kaozya(Ilonga農業研修所教官)を招集して毎月植え試験の実施法およびデータ収集法について指導した.Ilonga農業研修所は,毎月植え試験の実施に意欲を見せており,これを契機に試験を実施することになった.

<Microsoft Excelの使用法>

Microsoft Excelを利用したデータ解析法およびグラフ作成法を指導した.両研修員ともJICA筑波での集団研修「稲作技術開発」に参加した経験を持つ.集団研修の最終報告書は,圃場試験を実施する際の栽培技術やデータ収集法について綿密な研修を受けたものの,データ解析については満足な研修を受けていないことを示していた.そこで, 集団研修のデータをMicrosoft Excelで解析する方法について指導した.両研修員とも,統計解析の理論について,そらんじる程に記憶しているものの,その理論を使って実際にデータを解析した経験が浅いため,実際のデータを目の前にして,どこからどう手を付ければよいのか立ち尽くしてしまうようだ.そこで,適用する解析法に準じてデータ群を並べ替え,解析結果をグラフで図示するまでの手順を一つ一つ指導した.集団研修では,類似データを複数回に渡って収集しているため,一連の解析手順を繰り返して経験でき,その手順に関してはよく慣れてきたようだ.しかし,それでも修得すべき解析法やパソコン操作の一部を経験したに過ぎない.今後も,多様なデータ群を何度も解析する訓練が必要だ.

毎月移植試験の結果については,Sekiya et al. (2015)を参照.