飼料用水稲の巨大根系

飼料用水稲の巨大根系

水稲根系の「Hidden function(隠れた機能)」
飼料用イネ品種が拓く持続可能な農業の可能性

植物の根系は、その重要性にもかかわらず「Hidden half(隠れた半身)」と呼ばれるほど研究が困難な領域です。特に水田では、湛水環境が根系調査を一層複雑にしています。本研究では、飼料用水稲の「たちすずか」と「たちあやか」という極短穂(穂が極端に小さい)品種が、出穂後に根に非構造性炭水化物(NSC、デンプンや糖類)と窒素を大量に蓄積することを発見しました。

(1)巨大な根系の発達:飼料用イネ品種は、巨大な茎葉部だけでなく、巨大な根系も発達させることが判明しました。この根系の重量は、一般的な品種であるコシヒカリの茎葉部を上回るほどでした。
(2)栄養素の大量蓄積:これらの品種の根は、デンプンを最大で20-25%も含有し、さらに通常の基肥施肥量に匹敵する窒素も蓄積していました。
(3)シンク・ソース関係の再考:従来、イネの穂が出穂後の主要なシンクと考えられてきましたが、本研究は根もまた重要なシンクとして機能することを示しました。

これらの発見は以下のような可能性を示唆しています。

(1)土壌肥沃度の維持:収穫後、根に蓄積された有機物と窒素が土壌に残されることで、堆肥を投入したような効果が期待できます。
(2)持続可能な農業システムへの貢献:化学肥料への依存を減らしつつ、土地の生産性を維持できる可能性が示唆されました。
(3)畜産業との相乗効果:飼料用イネの栽培は、飼料価格高騰に悩む畜産農家の負担軽減と、耕地への有機物還元という二つの課題に同時にアプローチできる可能性があります。

この研究は、足掛け9年という長期間にわたる努力の末に、農学分野でトップクラスの国際誌「Field Crops Research」に掲載されました。この成果は、水稲の「Hidden function」を明らかにし、持続可能な農業システムの開発に新たな視点を提供しています。
今後の研究課題としては、この特性の遺伝的基盤の解明、土壌微生物叢への影響、後作による養分利用効率の評価などが挙げられます。これらの知見は、環境調和型農業の実現に向けた重要な一歩となる可能性を秘めています。
私たちの研究は、身近なイネという作物にまだまだ未知の可能性が眠っていることを示しています。これからも、植物の持つ潜在的な機能を探求し、より持続可能な農業の実現を目指して研究を続けていきます。