
地力の広域空間分布
地力から眺めた新たな田園景観
空間計量経済学を用いた地力の空間分布解析
水稲は世界人口の半分以上を養う重要な作物です。しかし、その生産性を支える窒素肥料の利用効率は30-50%と低く、水稲は土壌からの窒素供給に大きく依存していることが分かります。水田は畦畔で区切られた小区画が連なって広がっており、栽培管理の違いによって各水田の土壌肥沃度も異なると考えられてきました。しかし、水田は灌漑システムでつながり、同じ地形の影響下にあることから、土壌肥沃度が相互に影響し合っている可能性があります。
私たちは、京都府与謝野町の水田地帯(880ha)において61水田の可給態窒素(土壌が潜在的に供給しうる窒素量≒狭義の地力)を計測し、その空間的分布に対して空間解析を適用しました。その結果、可給態窒素は立地条件によって有意に類似した値を示す空間的自己相関を有し、谷筋の水田群で15.5-27.0 mg/100gという高くなる一方で、河川沿いでは7.3-16.1 mg/100gと低くなることが分かりました。
次に、空間計量経済学の空間ダービンモデルを用いて、ある水田の性質がその水田自身(直接効果)と周辺水田(間接効果)に与える影響を評価しました。その結果、水溶性有機炭素がその水田の可給態窒素を高める一方で(直接効果:+1.096)、周辺水田の可給態窒素には負の影響(間接効果:-0.876)を示すこが明らかになりました。腐植含量にも同様なパターンが見出され(直接効果:+0.864、間接効果:-0.762)、地形に応じて有機物が移動・集積し可給態窒素を変動させている可能性が示されました。
さらに、水溶性窒素はその水田の可給態窒素に対して負の効果(-0.437)を、周辺水田の可給態窒素に対して正の効果(+0.355)を示し、水系を介した窒素移動の存在が示唆されました。交換性カリウムは周辺水田との間に正の相互作用(+0.325)のみを示す一方、仮比重はその水田内での負の効果(-0.301)のみを示すなど、養分特性によって異なる空間的影響が確認されました。
以上の結果は、水田の地力を維持・改善するにためには、従来のような個別の水田で対応策を講じるよりも、地域レベルで共同管理する方が有効である可能性を示したと言えます。今後はこの研究をさらに発展させ、立地や地形が地力を変動させる要因を解析するなど、持続可能な農業の実現に貢献していきたいと考えています。
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