地酒ブランドつくり(三重県多気町)

三重大学オリジナル酒米品種「弓形穂」を活用した多気町地酒ブランド作りへの貢献

酒米研究は、2017年以降、三重大学地域貢献事業に認定されています。

活動の背景

 日本酒の消費量は減少の一途を辿っている。低迷する日本酒業界における生き残り策として,全国的に利用されている酒造好適米品種の「山田錦」や「五百万石」とは一線を画し,地域独自の酒米品種を原料として醸造する試みが各地で実践されている。三重大学生物資源学部附帯施設農場(以下,大学農場)は,三重県在来の酒米品種である「伊勢錦」から「弓形穂」を育成した。「弓形穂」は農林水産省に品種登録され,三重県における醸造用玄米の選択銘柄にも指定されている。現在,大学農場から供給された「弓形穂」の種子を元に,多気町の営農組合が原料米を生産し,同町の酒蔵がその原料米から清酒を醸造している。 
「弓形穂」で醸造した清酒の人気は高く,酒米品質に対する酒蔵からの評価も高い。多気町の酒蔵は清酒の増産を計画し,多気町役場はこの清酒を地域ブランドとして推進する意向を示している。一方,原料供給を担当する営農組合は,弓形穂の栽培技術が確立していないことから,高品質な原料を安定的に供給する難しさを訴えている。
そこで本活動では,「弓形穂」の高品質安定多収栽培技術を確立するために,多気町の現地水田における調査と大学農場における栽培試験を実施する。

活動の内容

 三重県多気郡多気町四疋田において現地調査を実施する。まず,営農組合の実践する栽培技術について組合員から聞き取る。同時に水田土壌を採取し,三重大学内実験室において特性を分析する。また,収穫時には収量および酒米品質を調査する。
大学農場において栽培試験を実施する。「弓形穂」,「山田錦」,「神の穂」,コシヒカリの4品種を比較する。「山田錦」と「神の穂」は,三重県における醸造用玄米の必須銘柄である。コシヒカリは三重県における水稲うるち籾の必須銘柄で,県下栽培面積の約80%を占める主力食用米品種である。本年度は,これら4品種を異なる窒素施肥法で栽培し,生育,収量,酒米品質を比較することで,「弓形穂」栽培における問題点を明らかにする。また,来年度は異なる移植時期と窒素施肥法で栽培し,「弓形穂」の酒米品質を著しく低下させる穂発芽の問題を回避するための早期栽培の可能性を探る。
各年度の栽培期間中と収穫後には,申請者,営農組合,酒蔵,多気町役場が一堂に会する場を設けて情報を共有するとともに翌年度の作付について議論する。

期待される成果

 営農組合における「弓形穂」の栽培技術が改良され,高品質な酒米原料を安定的に供給可能になることが期待される。安定供給が達成されれば,「弓形穂」を原料とした清酒の生産量が増加し,多気町役場は清酒を地域ブランドして広報に利用できることが期待される。栽培技術の改良により高品質な種子生産も可能となるため,「弓形穂」の栽培面積(栽培農家)が増加する可能性もある。また,調査は申請者の指導生が卒業研究として実施するため,学生が地域農業の実態を肌で感じる絶好の機会となる。多気町役場は,学生が地域の活動へ参加する機会を歓迎しており,学生と地域住民との交流活動へ発展する可能性もある。

 活動の成果は,営農組合,酒蔵,多気町役場との会合で共有され,翌年度の栽培へ活用される。現実的には,従来の栽培方法を翌年度から劇的に変更することは難しく,現地水田の一部で試験的に採用し,従来法に対する優位性を実証する必要がある。したがって,多気町での現地調査および大学農場での栽培試験は,複数年度に渡って実施されなければならない。申請者は,本活動が三重大学の地域貢献活動に果たす役割は小さくないと考える。本事業による支援が単年度で終了した場合でも,申請者に配分される運営費等を活用し,何とか本活動を継続する。また本活動では,三重県において広く栽培されている水稲品種と「弓形穂」を比較しており,弓形穂の栽培経験がない農家にも本品種の特長を理解しやすい情報を提供する。したがって,複数年度に渡る活動により「弓形穂」の高品質安定多収栽培技術を確立できれば,多気町に限らず他地域にも栽培農家が拡大し,地域貢献活動の新たな展開も期待できる。